かつて、オーストラリアにおいてティーツリーオイルの『真贋論争』があったことをご存じでしょうか? 今回は知られざるこんな話題。
数あるエッセンシャルオイルの中でもっとも研究が進んでいるオイルでもあるティーツリーオイルにはISO(国際標準化機構)でその品質の基準が定められています。これにより一定のレベルのオイルの品質が保たれるルールになっているのですが、このISO制定の舞台裏にあったのがオイルの真贋論争、つまり「本物のティーツリーオイル」を巡る業界の中での激論でした。
ティーツリーオイルといえば一般的には「Melaleuca alternifolia」のオイルを指します。むしろ多くの方がこの名の樹木こそが唯一のティーツリーの木だと認識している事かと思います。しかし、下記のISOの規格を読んでみると意外な事実が。
AS 2782 – 2009 Oil of Melaleuca, terpen-4-ol type (Tea Tree Oil)
Essential oil obtained by steam distillation of the foliage and terminal branchlets of Melaleuca alternifolia (Maiden et Betche) Cheel, Melaleuca linariifolia Smith, and Melaleuca dissitiflora F. Mueller, as well as other species of Melaleuca provided that the oil obtained conforms to the requirements given in this International Standard.
上記の規格によりますとティーツリーオイルはMelaleuca alternifoliaに加えて、Melaleuca linariifolia、Melaleuca dissitiflora、そしてそのほかの国際基準を満たすメラルーカ種の樹木より水蒸気蒸留法により抽出されたオイルと定められているのです。
このISO制定に深く関わった友人によるとその理由の一つがティーツリーオイルを巡る真贋論争だったと言います。
当時、比較的容易に栽培でき、その良好な生産者価格により高い利益が見込めるティーツリーの栽培がブームになっていました(オーストラリアの農家は時々の流行によって栽培する作物をしばしば変えることが珍しくありません)。この結果、多くのティーツリー生産者が生まれましたが、一方でその品質にはバラツキが目立つようになったため、統一した品質基準が必要になった事がISO制定の第一の目的でした。
この時、同時に勃発していたのが複数のメラルーカ種の樹木からティーツリーオイルが生産されていたという事実による真贋論争です。共にメラルーカ種の近い種類の木ですから、ケモタイプによっては非常に似た成分のオイルを抽出する事ができたのです。この結果、「本物のティーツリーオイルの木」を巡る論争が勃発しました。
利益とビジネスの存亡を賭けた激しい論争の末、決着したのはISOとして定める品質基準を満たすことを条件に全てのメラルーカ種の樹木より抽出されたオイルをティーツリーオイルと認める、というルールでした。そしてようやくこの真贋論争に終止符が打たれるのです。
その後、1990年代後半から2000年代前半にかけてのティーツリー生産者価格の大幅な下落により、主に取引単価の低かった低グレードのオイルが採れる畑の栽培農家から順に生産撤退が相次ぎ、ティーツリーの栽培ブームは終わりを迎えます。結果、ティーツリーオイルの品質の平均値が大きく向上する事になりました。
こんな曲折を経て、現在でこそMelaleuca alternifolia が主役のティーツリー業界。しかし過去にはこんな論争があったのです。そして現在もメラルーカ種の樹木の研究は進められています。もしかすると数年後、数十年後にはもっと優れたメラルーカ種の樹木・ケモタイプが発見され、「ティーツリーオイルの木」の主役が入れ替わってしまう事だって考えられますね。